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眠るための夜ではない

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2012.02.04 Sat 鉄条

濡れた頬に風が吹き付ける

凍傷で壊死した鼻や唇がばらばらに落ちてしまわないよう、

私は両手でそっと顔を覆う

庇いきれなかった耳がもげて、

足の生えた海豚が舌なめずりして食う


精神の孤独に地平線はない

それは突如、宇宙船のように頭上へ現れて

たった一つの光で、私を見出す

生温い羊水の海面から


指先が付かないほど深い生命のプールで

人々はひしめき合い、時に流され、時に沈む

浮き輪だと思ってしがみついたそれは

隣で泣き叫ぶ子どもの母の遺体であるが

私は気にとめない

誰も気にとめない


果たしてどれだけ長い間、こうしていただろう

ふやけた指先は祖父のそれを思わせるが

さざ波の耐えない水面に、私の顔は写らない

そうして

耳を澄ませて聞いていると

悲しい音は、いつも同じところからやってくる

同じ人の影を携えて

しわがれた枯れ葉の匂いを漂わせている


大切であればあるほど、

愛していればいるほど、

そこに命は介在しない

生きていることの幻を、ただむさぼり食う

柔らかな唇の形を、ただ乱暴に描く

かき消すためだけに


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